為替デリバティブ被害
1 はじめに
中小企業向けの為替デリバティブ被害が社会問題となっています。
2004年~2007年頃、為替レートが1ドル110円~120円のときに、大手都市銀行は中小企業に対し、 「為替リスクヘッジのため」等と称して為替デリバティブ(通貨オプション)と言われる金融商品をこぞって販売しました。 しかし、その後、2008年のリーマンショックを機に円高が加速し、現在では1ドル80円を割り込む超円高の状況が続いています。
それにもかかわらず、リーマンショック以前の為替レートに基づき5年以上もの長期間にわたり大量のドルを買う義務を負わされている中小企業が多数出ています。 悲惨なケースでは、円高のために毎月数千万円という損失が発生し、銀行から執拗に入金を迫られて、 本業の業績が好調であるにもかかわらず倒産の危機に瀕している中小企業が少なくないのです。
2 為替デリバティブ取引とは
為替デリバティブ取引(通貨オプション取引)とは、一般には、「通貨を一定の条件で買う、又は売ることのできる権利」を売買する契約をいいます。 金融機関(主として大手都市銀行)が中小企業(輸入企業)に対してドルコール円プットオプション(以下「ドルコールオプション」といいます)を売ると同時に、 中小企業からドルプット円コールオプション(以下「ドルプットオプション」といいます)を買い、オプションの対価(オプション料)の受取りと支払いを相殺することによって、 契約締結時の費用をゼロ(いわゆるゼロコスト)にする取引です。
3 為替デリバティブ取引の問題点
金融機関は輸入企業に為替デリバティブ取引(通貨オプション取引)を勧めるに際し、 ドル建て債務についての為替変動リスクをヘッジするための商品と説明するのが通常です。 しかし、為替デリバティブ取引の実態は、リスクヘッジのための契約というより、 企業が大きな損失リスクを抱える投機的取引と見るほうが実態に即しています。 ほとんどの金融機関はこの為替デリバティブ取引の危険性を正確に説明せず、あくまで「為替リスクヘッジのための」取引であるとしか説明していませんでした。 それまでデリバティブ取引の経験などない堅実な中小企業に対してまで、為替リスクヘッジのためと称して投機性の高い危険な金融商品を販売していたのです。
しかも「為替リスクヘッジ」を取引の目的に謳いながら、金融機関は契約締結に際して当該中小企業の為替リスクヘッジニーズを精査せず、 実際のヘッジニーズを遙かに超える過大な量の取引を勧誘したり、あるいはヘッジニーズがほとんどない企業(直接の為替取扱いがない企業)にまで販売しています。 ただでさえ投機性の高い取引を大量に締結した企業は、現在の超円高で多額の損失を被っています。金融機関は本来、企業のヘッジニーズ等を的確に把握し、 そのニーズに見合った適切な商品を販売すべきです。ところが適合性を無視し、 必要な説明もせずに大量の取引を勧誘したのは、一回の契約締結により得られる手数料収入が莫大な金額に上るからに他ならないと言えます。
すなわち、多くの為替デリバティブ契約において、企業が金融機関に売却するドルプットオプションの価値は、 金融機関から購入するドルコールオプションの価値より数百万円~数千万円も高額です。 それを相殺という形で「ゼロコスト」にして、金融機関はオプション料の差額分に相当する数百万円~数千万円の金額を、一度に手数料として得るのです。
当然ながら、当の中小企業は自身が売却するドルプットオプションの価値と、金融機関から購入するドルコールオプションの価値の差を全く知りません。 自らが売却する商品が、購入する商品よりも数百万円~数千万円も価値が高いと知っていれば、安易に「ゼロコスト」で契約を締結しようとは普通考えないでしょう。 金融機関は勧誘の際にオプションの価値の格差を何ら明らかにせず(むしろこれを隠蔽して)、ただ「ゼロコスト」を強調して多額の手数料を稼いだことになるのです。
4 解決の方法
銀行に為替デリバティブ取引の解約を申し入れても、数千万円~億を超える解約損害金が必要と言われ、諦めざるをえない中小企業も多いのが実情です。
他方で、裁判外紛争解決手続きである金融ADRという手続きを利用して、為替デリバティブ被害を解決しているケースも近年爆発的に増加しています。このADRにおいては、ADR機関が提示した『あっせん案』に基づき契約を解約の上、解約損害金の一部を銀行が負担する解決を図ることが出来ます。
例えば、解約するにあたって、9000万円の解約損害金を請求されていた場合、銀行がその5割の4500万円を負担し、中小企業は残りの4500万円を 負担するという解決も可能となります。この場合、中小企業は銀行からその4500万円の返済に必要な資金を融資してもらうことができます。 負担割合を減額した上、融資も併せて受けられることは、この金融ADRの大きなメリットと言えます。 尚、この場合、中小企業と銀行の関係が悪化することはなく、事業資金の融資等は問題なく従前通り継続していくことになります。
もっとも、金融ADRは互譲の精神に基づく制度である以上、銀行に解約損害金の大部分を負担させたり、既払い金を返還させることまではなかなか難しいのが実情です。
また、為替デリバティブ取引自体に内在するリスクや金融機関の説明義務違反の有無について議論がなされるのはまれで、 金融機関の契約提案時における企業の為替リスクのヘッジニーズの調査が十分だったと言えるか(オーバーヘッジになっていないか等)、 企業が損失の負担に耐えられない規模の取引ではなかったか(財務上問題がなかったか)という点のみ視点を当てて、 説明義務違反等のやりとりはほとんど蚊帳の外として、和解のあっせんがなされているのが実態です。
そこで、金融ADRの『あっせん案』に納得がいかない場合はもとより、金融ADRの上記限界を克服して、 説明義務違反等の違法性について綿密な認定を得て損害賠償請求を認めてもらうためには、裁判所に訴訟を提起して法的解決を図ることとなります。
5 解決の流れ
(1) 法律相談
事実関係の聴き取り。
(2) 銀行に受任通知
毎月の支払い停止。
(3) 全国銀行協会に金融ADR(あっせん手続き)申立て
(4) 全国銀行協会を通じて、銀行側から回答
銀行側からの答弁書の提出。
(5) あっせん期日・あっせん案の提示
原則1回のみ。あっせん委員があっせん案(負担割合)を提示。
(6) あっせん案の検討(受諾の可否)
この間並行して銀行側と融資の協議。
(7) あっせん成立
銀行との間で期日外協議して融資の契約。
6 おわりに
当職にご相談にこられた方の中にも、全国銀行協会の金融ADRを利用して契約の解約と、違約金について解決するとともに、銀行から融資を取り付けた事例が多数ございます。 この全国銀行協会の金融ADRは名古屋で行うことができます。現在多くの中小企業がこの問題で苦しめられていますが、この分野を専門としている弁護士が少ないのが現状です。
また、当職は、名古屋先物証券問題研究会事務局次長、先物取引被害全国研究会幹事、全国証券問題研究会幹事を務めており、この種の金融商品被害の救済に日夜取り組んでいます。
もし、金融商品の取引に関してお困りのこと等がございましたら、まずはお気軽にご相談ください。
尚、為替デリバティブ取引の初回ご相談料は無料となっております。
個別のご相談については弁護士にご相談ください。
TEL:052-961-3071
名城法律事務所 弁護士正木あて