英文契約条項の解釈
国際取引では英文契約が多用されますが、国内取引に比して契約書が特に重視される傾向にありますので、契約締結前には英文契約条項の緻密な検討が不可欠となります。
法律英語には独特の表現が多いですし、法律的な観点から英文解釈を行い、一義的に捉えられるかも確認しなければなりません。こうした英文契約の性質上、例えば以下のような英文条項が2つある場合、一見同じようにみえても、法律的にはかなり意味が異なってくることがあります。
(a) ABC shall not be responsible to XYZ for failure to perform ordelay in performing its obligations if it is due to a force majeure event.
(b) ABC shall be responsible to XYZ for failure to perform or delay in performing itsobligations unless it is due to any force majeure event.
ここで、force majeure eventは「不可抗力」という意味です(尚、不可抗力条項については、本来限定列挙する必要があります)。そうすると、(a)は「ABCは、不可抗力によってその義務を履行できず又は遅滞した場合、XYZに対し不履行の責任を負わない。」と訳せ、(b)は「ABCは、その義務の不履行又は遅滞が不可抗力によるものでない限り、XYZに対し不履行の責任を負う。」と訳せますので、両者は同じことを反対側から述べているに過ぎないようにもみえます。
しかし、この(a)(b)の条項を対比してみると、大きな違いがあることに気付きます。すなわち、(a)は、契約の不履行又は履行遅滞が不可抗力に基づく場合及びXYZの故意過失に基づく場合には、ABCは契約不履行の責任を問われないことになります。一方、(b)は、契約の不履行又は履行遅滞が不可抗力に基づく場合は、契約不履行の責任を問われませんが、XYZの故意過失に基づく場合には、ABCが契約不履行の責任を問われる恐れがあるのです。この場合、ABCに契約不履行の責任が原則生じますが、それがXYZの故意過失に基づくことを主張立証して自己の責任を免れることが必要になってきます。そうすると、特にABCの立場からすれば、(b)のような自己に不利となりうる曖昧な表現の契約条項は避けるべきでしょう。
(a)(b)の契約条項は意味的に余り変わらない様にみえますので見落としがちですが、このような契約条項の表現方法次第で、法律的には大きな権利義務関係の相違が生じてくるといえます。
上記はやや単純な一例にすぎませんが、英文契約を締結される場合には、個別契約条項につきこうした解釈問題を少なからず包含することになりますので、後日紛争を予防するためにも、事前に弁護士のチェックを受けることをお勧めいたします。
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名城法律事務所 弁護士正木あて